シラバス作成のためのガイド
ここでは,シラバスの作成に関する一般的な事項について説明しています。
1. シラバスとは
シラバスは,設計した授業の全体像を,受講する学生に伝えるための道具です。
ここに示すすべての内容を漏れなく提供する必要はありません。
ですが,シラバスで多くの情報を提供することは,学生の学習を導き,授業の開始当初の学生の不安を少なくすると考えられています。
まずは,無理のないところから,少しずつ情報を充実させてみてください。
シラバスの作成にあたって,不明な点,必要な情報,「シラバス作成のためのガイド」へのご意見などがありましたら,教務チーム(教務調査担当)<kyomuchosa@ab.>(末尾に mie-u.ac.jp を補ってください)まで気軽にご連絡ください。
高等教育創造開発センターが発行する NewsLetter の第4号「授業デザインの方法:詳細なシラバスの設計と運用」でも,関連情報を提供しています。
シラバスの作成に関する文献については,文末で紹介しています。
1.1. シラバスの主な役割は,次のとおりです。
- 学生が授業を選択するためのガイド
- 教員と学生間の約束事項を示す文書
- 学生が学習を進めるためのガイド
- 授業全体(15回)の設計図
- 学科や学部のカリキュラムの体系を考えるための参考資料
1.2. シラバスの運用に関する要点は,次のとおりです。
- 第1回の授業のときに配布し,説明をする。
- 学期開始後の数回の授業には,シラバスの予備を持っていく。
- 慎重に準備をしてシラバスに示すと同時に,初回の授業から学生の反応や取り組み方に注意を向け,授業にとって役立ったり,授業がうまくいかなかったりする場合には,変更を加えるという柔軟さも必要になる。
- 同じ科目であっても,クラスや学年によって進度が異なることもある。授業計画を変更した場合には,学期途中であっても手直しをしたシラバスを提示したり配布したりする。
※ はじめての授業科目を担当する場合
担当する授業科目に関する情報を収集する一般的な方法は,次のとおりです。
- 担当する授業科目に前任者がいる場合
-
- 前任者から授業について話を聞いておく。
- 可能な範囲で,シラバス,課題,配布資料,試験問題,成績評価の分布などの資料を入手する。
- 新しく開講される授業科目を担当する場合
-
- 他大学の類似した授業を参考にする。
(サーチエンジンに,‘授業科目名’と‘シラバス’でAND検索をすれば,多くの情報を得ることができます。)
- 教科書として活用できそうな文献を通読する。
2. 授業を設計するとは
授業を設計するとは,ある学期を通じて担当する授業科目の学習目標,学習内容,学習方法,評価方法などの全体像を設計することです。
授業デザインともいいます。
2.1. 授業を設計するときの重要な問い
①目標 : |
授業によって学生が到達すべき目標は何か。 |
②方法 : |
学生がどのように目標を達成するのか。 |
③評価 : |
授業の目標に学生が到達したかどうかをどのように確認するのか。 |
2.2. 授業設計のポイント
① 適切な学習目標を設定する。
- カリキュラムからの視点
-
- 大学や学部・学科がどのような人材を養成しようとしているのか。
>本来であれば,各学部や学科が策定しているディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)を参照して設定することが望まれます。
ですが,現状では,各学部や学科でディプロマ・ポリシーを策定している最中です。
ディプロマ・ポリシーが策定されるまでは,他の事項にもとづいて設定して下さい。
- 担当する授業科目がカリキュラムの中でどのような位置づけを与えられ,何を期待されているか。
- 学生が履修する他の授業科目とどのような関係があるのか。
- 学問分野からの視点
-
- 自分が教えようとする学問分野や研究テーマでは,本質的に何が重要なのか。
- 学問分野の研究成果を教えることを重視するのか,それとも,学問分野に特有の考え方や研究方法を教えることを重視するのか。
- 受講者からの視点
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- 学生がその授業科目を受講するにあたって,どの程度の予備知識と能力を持っているのか。
- 学生はどのようなことに関心を抱いているのか。
- 学生には,どの程度の学習習慣が身についているのか。
- 学生は卒業後にどのような進路を選択しようとしているのか。
- 物理的制約条件からの視点
-
- どのような教室で授業をするのか。
- どのような情報機器が利用できるのか。
- ティーチング・アシスタントなどによるサポートが得られるのか。
- 予測される受講者数は何名程度なのか。
- このような物理的制約条件の中で実現が可能なことは何か。
② 学習目標を明確にする。
- 学生を主語にする。 ×「△△を教える/紹介する」
- 学生の行動で目標を示す。 ○「△△を説明できる/分析できる」(学習の到達目標(行動目標))
- 条件や程度を設定する。「なめらかなフォームのクロールで60秒以内に50メートルを泳げるようになる」
学習目標の詳細については,シラバスの入力画面の「学習の目的と方法」にある「学習の目的(一般目標)」や「学習の到達目標(行動目標)」の項目に関する説明を参照してください。
③ 学習成果からの逆算的思考をする。
- 1) 最後の授業が終わった後に,学生にどのような知識,態度,技能が身についているのかを明確にする。
- 2) 1)をもとに,どのように授業を設計するのかを考える。
→ 学習目標を達成するために必要な要素とその関係を明らかにする“課題分析”という方法があります。
課題分析については,次の文献に説明があります。
鈴木克明「教材の構造を見きわめる」『教材設計マニュアル:独学を支援するために』北大路書房,2002,p.61-75.〔附属図書館(研究室図書 : HEDC に所蔵あり ) : 375.1/Su96〕
④ 授業時間外の学習を充実させる。
学習時間は,学生の学習成果を左右する重要な要素であると考えられています。
そのために,教室外の学習時間(授業外学習の時間)も念頭に入れて,授業を設計する必要があります。
単位制度の趣旨(大学設置基準 第21条)は,「学生がいかなる授業科目を選択しようとも,授業時間数を基礎に算出した単位数が同じであれば,学習内容・成果も同程度に評価する」ことにあります。
大学設置基準では,1単位あたりの学習量を次のように定めています。
1 単位 = 「45時間の教室内外の学修を必要とする内容をもって構成することを標準とする」
1単位は①と②の合計で標準45時間の学修を要する学習内容です。
① 教員が教室等で授業を行う時間
② 学生が事前・事後に教室外で準備学習・復習を行う時間(一般に,授業時間外学習といわれますが,これも授業時間です。)
45時間は,1週間あたりの学習時間に相当します。
「1単位=標準45時間」の根拠 : 8時間 × 5日 (月~金曜日) + 5時間 (土曜日)
2.3. 授業の設計や設計した授業時間外の学習を支援する環境
必要に応じて配布資料にするなど,学生にも関連する情報を伝えて下さい。
シラバスの作成に関する参考文献
(この「シラバス作成のためのガイド」も,これらの文献を参照しています。)
- Brinkley, Alanほか「シラバスを準備する」『シカゴ大学:教授法ハンドブック』(小原芳明監訳)玉川大学出版部,2005,p.22-25. 〔附属図書館(研究室図書 : HEDCに所蔵あり ) : 377.15/C42〕
- Davis, Barbara G.「授業のシラバス」『授業の道具箱』(香取草之助監訳,光澤舜明,安岡高志,吉川政夫訳)東海大学出版会,2002,p.17-24.〔附属図書館(研究室図書 : HEDC に所蔵あり ):377.15/D46〕
- 北海道大学高等教育機能開発総合センター「北海道大学FDマニュアル」(採取 2010-09-20)
→見出しにある「教員支援」をクリックすると,「教員とTAのための教育支援」というページに行きます。そこにマニュアルへのリンクがあります。
- 池田輝政,戸田山和久,近田政博,中井俊樹「授業が始まるまでに」『成長するティップス先生:授業デザインのための秘訣集』玉川大学出版部,p.59-72.〔附属図書館 (研究室図書 : HEDC に所蔵あり ) : 377.15/Se17〕電子版
- 夏目達也,近田政博,中井俊樹,齋藤芳子「授業を設計する」『大学教員準備講座』玉川大学出版部,2010,p.25-36.
- 岡山大学教育開発センター「授業改善のためのティーチング・ティップス集」
- 佐藤浩章,小林直人,野本ひさ,山本久雄『大学教員のための授業方法とデザイン』玉川大学出版部,2010,148p.
- 鈴木克明『教材設計マニュアル:独学を支援するために』北大路書房,2002,188p.〔附属図書館 (研究室図書 : HEDC に所蔵あり ) : 375.1/Su96〕
HEDC が所蔵する図書については,附属図書館の研究室貸出制度を利用して借り出すことができます。
申し込みや問い合わせ先は,附属図書館の参考カウンターです。
(内線9089 もしくは 9660,電子メールliteracy@ab. (末尾に mie-u.ac.jp を補ってください))
(最終更新日 : 2010年12月3日)